特異的腰痛とは
特異的腰痛は、画像検査などで明確な原因が特定できる腰痛を指します。腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、脊椎外傷、関節リウマチなどが原因となり、これらの疾患の治療が最優先されます。ただし、症状の緩和のために腰痛に対する対症療法も行われることがあります。
特異的腰痛の代表的な疾患
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアは、背骨の腰にある腰椎とその間にある椎間板が変性し、脊柱管内に突出する状態です。主な原因は加齢や腰の酷使(スポーツ、肉体労働、外傷)であり、変性により神経根や馬尾が圧迫されることで腰痛や可動域制限が生じます。症状には足の感覚障害や坐骨神経痛も含まれ、馬尾圧迫によりしびれや排泄障害が現れることもあります。診断には主に画像検査が使用されます。
腰椎椎間板ヘルニアの治療
腰椎椎間板ヘルニアの治療は主に保存療法が中心です。腰痛に対しては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や筋弛緩剤、神経ブロック注射が使用されます。腰部の安静を促すためにコルセットを用いた装具療法が行われ、理学療法も実施されます。理学療法には温熱療法、低周波治療、牽引療法などが含まれます。これらの保存療法の効果がない場合、手術療法が検討され、ヘルニア摘除術が行われることがあります。手術は最終手段として考えられ、他の治療法が試されることが通常です。
脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症は、長期間にわたる背骨への負担により、脊髄通路が狭まり、脊髄が圧迫される状態です。頚椎や腰椎に発生し、血液の流れが悪化し、脊髄の機能が低下する可能性があります。症状には腰痛や下肢のしびれ・痛み、歩行困難があります。治療では薬物療法を行いつつ安静に過ごし、進行がみられれば外科治療も検討します。病状が進行すると、脊髄損傷のリスクもあるため、早期の発見と治療が重要です。
非特異的腰痛とは
非特異的腰痛は、画像検査などを行っても原因が特定できない腰痛で、腰痛の約8割がこのタイプに該当します。異常は骨や関節だけでなく、生活習慣やストレスといった心理的要因によっても引き起こされる可能性があります。急性の非特異的腰痛は急激な姿勢の変化によって生じ、ぎっくり腰がその一例です。重い物を持ち上げたり、急な腰の捻りや急激な起床が原因です。
典型的な症状には激しい痛みや腰椎の運動制限があります。急性の非特異的腰痛は発症から1ヵ月未満で、激痛や運動困難が特徴です。
一方で慢性の非特異的腰痛は発症から3ヵ月以上続くもので、持続的な腰全体の痛みやだるさ、重み感が見られます。同時に精神的な症状も現れ、抑うつ状態や身体表現性障害が起きることもあります。心理的な要因が影響することで、慢性の非特異的腰痛は身体的な症状だけでなく、心身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。
非特異的腰痛の治療
非特異的腰痛は原因が特定できない腰痛で、薬物療法が主流です。NSAIDsなどの痛み止めや神経ブロック注射が使われ、強い症状時には安静が勧められます。適度な運動や腰痛体操も推奨され、ぎっくり腰の場合は多くが1ヵ月で軽減します。慢性の場合、薬物療法に抗うつ薬や抗不安薬が追加され、心理的な要素に対する認知行動療法も行われます。治療は個々の症状や経過に応じて検討し、痛みの緩和と生活の質向上を目指します。
上殿皮神経障害
上殿皮神経障害は、腰椎から出てきた神経がお尻の骨を乗り越えるところで上殿皮神経が絞扼されることによって引き起こされる腰痛の一形態です。腰からお尻にかけて痛みが生じ、特にお尻の上部を押すと強い痛みが現れるのが特徴です。この神経は細く、MRIやレントゲンでは検出が難しく、腰を捻る、起き上がる、歩くなどの動作で痛みが増すことがよく見られます。日本では腰痛患者が多く、その中で約14%が上殿皮神経障害とされています。全体の80%が一生のうちに腰痛に悩まされ、約30%が腰痛症状を抱えているとの報告もあります。
主な症状
上殿皮神経障害は、上殿皮神経の圧迫や損傷により、お尻上部の痛みや特定の部位での鋭い痛みが生じます。しゃがむなどの動作や座位の継続が症状を悪化させ、骨盤の外方部を押すと痛むことがあります。睡眠時には寝返りで骨盤と神経がこすれ、歩行時にも痛みが現れます。手で骨盤を圧迫すると一時的に和らぐことがあり、進行すると脚に痛みやシビレが生じます。典型的な症状に敏感な反応が見られ、特定の動作に影響を受けやすい特徴があります。
治療方法
まず保存療法を試み、投薬、装具療法、リハビリを行います。効果が不十分な場合、局所麻酔薬を注射する「ブロック注射」を実施します。内服やブロック注射での改善が不十分な場合は神経剥離術が選択されることもあります。
殿皮神経障害の主な手術
局所麻酔下に顕微鏡を用いて原因となる殿皮神経の神経剥離術を行います。
中殿皮神経障害
中殿皮神経は腰や仙骨周辺で圧迫されることで生じる疾患で、主に腰殿部痛や下肢痛の原因となります。中殿皮神経は仙骨から分かれ、神経のつぶれる部位に症状が現れます。診断や治療が難しく、対応できる病院が限られています。
症状
中殿皮神経障害では殿部内側の痛みが生じます。これらの症状は腰椎の病気と似た下肢痛を引き起こし、腰をひねったり、起き上がったり、歩行したりすることで痛みが増す傾向があります。これにより、腰椎の疾患と混同されることがあり、併発している場合も多いです。
診断
診断は、痛みの発生部位を押圧して検査し、押して痛みがある場所を特定します。中殿皮神経障害では仙骨わきに強い痛みが生じます。これに加えて、殿皮神経ブロックと呼ばれる局所麻酔の注射を行い、その部位によって痛みが改善すれば診断されます。MRIやレントゲンなどの検査では異常が見つからないことがあります。
治療
殿皮神経障害の治療は、まず一般的な腰痛治療として、安静、コルセットの装着、鎮痛剤、理学療法などが試みられます。しかし、これらの治療の効果がない場合は、殿皮神経ブロックが行われます。殿皮神経ブロックは一時的な効果がありますが、再発が見られる場合には手術が検討されます。手術は神経を圧迫している靭帯や筋膜を切開し、神経剥離術を行います。この手術は約1時間で終了することができ、手術後の安静期間も少ないため、大きな負担はありません。
梨状筋症候群
梨状筋症候群は、ぎっくり腰から慢性的な腰痛が発展する症状で、お尻の深い部分に位置する梨状筋が硬くなり、坐骨神経を圧迫することで引き起こされます。梨状筋が硬くなる原因はさまざまで、日常生活やスポーツなどでの負担や股関節の異常などが関与しますが、原因が特定しづらい場合もあります。
主な症状
梨状筋症候群の主な症状には、お尻から太ももの裏側にかかる痛みやしびれ、動かしにくいといったものがあります。具体的な症状としては、臀部痛と坐骨神経に沿った太もも、すね、ふくらはぎ、足の甲、足底、足の指に広がる痛みやしびれが挙げられます。特に座った状態や階段の上り下り、ランニングなどの際に痛みやしびれが現れ、腰痛はあまり起こらず、お尻が痛むのが特徴です。他にもお尻の横の違和感や、膝の裏のしびれ、ふくらはぎの痛みなどが報告されています。
治療方法
梨状筋症候群の治療法として、梨状筋やその周りの筋肉のストレッチ、ブロック注射などがあり、これらの治療で軽快することが一般的です。しかし、難治の場合や症状が改善しない場合には、手術で梨状筋を切開する梨状筋切離が行われることもあります。梨状筋症候群は診断が難しく、坐骨神経痛を引き起こす他の疾患との鑑別が必要です。
レントゲン、CT、MRIなどの画像診断や、経験豊富な専門医による診断が重要であり、正確な診断をつけることが適切な治療を選択する基準となります。
梨状筋症候群の主な手術
梨状筋症候群における主な手術は「梨状筋切離術」です。保存治療が症状の改善に不十分だった場合、梨状筋による神経の圧迫が原因であると判断されると、梨状筋切離術が行われます。この手術では、梨状筋の停止部で筋肉を切り離し、坐骨神経に影響が出ない範囲まで切除します。
仙腸関節障害
仙腸関節障害は、骨盤の骨である仙骨と腸骨の間に位置する関節において微小な不適合が生じ、不用意な動作や繰り返しの負荷によって引き起こされる病態です。仙腸関節は体の動きに伴ってわずかに動くため、衝撃を吸収し、二足歩行に必要な機能を提供しています。この関節に生じた微小な不調和が症状を引き起こし、腰痛、臀部痛、下肢痛、およびしびれなどが現れることがあります。発生頻度は高く、年齢や性別に関係なく見られます。
診断
仙腸関節障害の診断には、画像だけでは難しく、痛みの部位を確認し、痛みを誘発するテストを行います。最終的には仙腸関節に局所麻酔薬を注射して、その軽減効果を確認し診断を行います。
治療
治療では仙腸関節への注射(仙腸関節ブロック)が確定診断となり、鎮痛剤の内服や骨盤ベルトの使用も併用されます。また、理学療法としてAKA-博田法が仙腸関節の不適合を改善するために有効です。